ブロックチェーンはいかにして国際決済との約束を果たすのか?
サンタンデール銀行研究開発部門責任者ジュリオ・ファウラより
ブロックチェーン技術が決済業務を、とりわけ国際決済を改善する可能性があることについて、これまで多くの議論がなされてきた。
この業務では、多くの関係者が異なる管轄内の様々な規制の下で決済を指示し、通貨の両替を行ない、さらに流動性資金を提供、管理するための合意に達する必要がある。
ブロックチェーンが取り組んでいる主な問題の一つに、金融業界そのものが分断化しているため、個人銀行が海外の銀行と直接取引をすることを困難にしているという決済ネットワークの複雑さがある。
例えば、銀行が顧客から決済指示を受けた場合、顧客の資金を受け取り、受け取り側の銀行において決済を実行する代理銀行を探す必要がある。
そしてそうするためには、あらかじめ流動性資金を十分に確保し、顧客の決済を完遂できることが理想的であることから、代理銀行は受け取り側の銀行と、あるいはさらに面倒だが受け取り側の銀行にアクセスできる代理銀行と共に、ノストロ・アカウント(外国で現地の通貨建てで保有する当方の決済口座)またはボストロ・アカウント(相手方の口座)を持っていなければならない。
しかしこの決済が発生した場合、受け取り側の銀行は実のところ、元々の顧客の送金から派生した、(直前の)代理銀行からの資金移動を確認する手段がない。
だからこそ送金側にはSWIFT(国際銀行間通信協会)の送金メッセージが必要であり、それによって受け取り側の銀行は入金される資金の目的を理解して、決済の適切な精査、またはマネーロンダリングに対するチェックを行ない、資金の受け取り側に通知することが可能となる。
関係者すべてが異なる台帳を持っている。すなわち、唯一の真実を共有できておらず、関係者間での調整は時間がかかりエラーも起こりがちで、事務処理部門のマニュアル業務に何度も頼る羽目になる。
その上、一方の側の誰かが通貨両替を行なう必要があり、異なる金融機関が中央銀行の口座に対する指示も含めて、ノストロ・アカウントおよびボストロ・アカウントの流動性コストを管理しなければならないのだ。
ブロックチェーンの約束
ブロックチェーンが果たすべき大きな約束は、上記の例で曖昧となっていた唯一の真実を正確に伝えることである。
実際、本当の意味でのスマートコントラクトを実現できるブロックチェーンは、口座残高を一致させつつ取引が行なわれ、決済が送金メッセージや会計照合を必要としない、ただ一つの共通のデジタルオブジェクトとして処理されることになる、単一の台帳と取引システムを提供することになる。
スマートコントラクトを使うことにより、様々な関係者が暗号資産を登録できるようになるだけでなく、端末相互間のすべての決済プロセスに適用可能な不変のルールを定めることが可能となる。
そうすることでエラーや誤解もなくなり、透明性と監査可能性は増し、詐欺やサイバーリスクは減るだろう。結果として、すべてが同じ台帳、同じスマートコントラクト、同じコンピュータシステムで処理され、エラーや改ざんの可能性はゼロになるのだ。
現在提案されている、いわゆる分散型の解決手法と言われるものの大半は、上述のメッセージ送信をデジタル化するか、インターレジャープロトコル(通信規格の一種)で結ばれた個々の台帳上で取引を行なえるように、決済を単一のデジタル形式で表すことにより、メッセージ送信を削除して決済過程を改善しようとしている。
これは今日のメッセージ駆動型(イベントに従って処理を行なうシステム)の決済過程にとって、大きな進歩だ。
しかしそのようなシステムを調整しようとした場合、特に、企業から高額の決済が求められた場合に発生する大きな問題がある。流動性資金の管理だ。
実のところ、翌日までの処理という速い決済は、あらかじめ資金のあるノストロ・アカウントを持っているかどうかにかかっている。それによって代理銀行は手持ちの現金で決済を行ない、受渡リスクを排除できるのだ。
そしてノストロ・アカウントの口座残高をその営業日中に一致させる必要がある場合は、多額の資金を中央銀行を通じて移動する必要がある。またもやここでも処理に時間がかかり、エラーが起こりがちだ。
少なくとも、リアルタイムで取引が行なわれて数秒で完了する、互いの承認を経たブロックチェーンと比較すればの話だが。
国際決済において流動性が低いということは、結局、ノストロ・アカウントにおける流動性を必要以上に高めることにつながってしまう。
新興経済国においては10または100ベーシスポイント(1%の100分の1)から10%にまで達する資金の機会費用の大きさを考えると、これは重大な問題である。
トークンの導入
決済や、商業銀行口座の残高、あるいはノストロ・アカウントの残高が保管されている同じ台帳において、価値の保存手段として役立つデジタルトークンを導入するということは、この状況を根本的に、そして劇的に変える可能性を秘めている。
これらのトークンは国際間における流動性資金の提供側と市場関係者との間において、リアルタイムで資金を交換するのに使用することができる。
この仕組みを通じて、流動性資金が交換可能なトークンベースの補助的な市場を形成することができる。資金の提供側は衝突を減らし、透明性を高めつつ他者と取引を行なえる。また、資本の流通速度が増すことで、異なる場所のノストロ・アカウントにおいて流動性リスクを抑えることができる。
これらのトークンとスマートコントラクトによって、参加者は未使用の流動性資金を早急に必要としている場所に、担保としてリアルタイムに移動することができる。
ここで鍵となるのは、これらのトークンができる限り広い範囲で利用できることと、国際決済銀行によれば一日あたり7兆円以上にも達する、現在の仮想通貨市場で必要なすべての流動性資金を支えられるかどうかということだ。
仮想通貨市場における重要な要素は移動可能なことであり、それゆえに流動性が関係しているのだ。
この役割を果たすために仮想通貨や他の暗号資産を利用するという提案もあるが、これらの手法には多くの制限がある。
市場がそうした資産を扱った場合、価格変動の激しさからリスクを抑えることが非常に難しい。そして流通している流動性資金の合計額は、市場が本当に必要としている金額に比べれば微々たるものだ。
世界的に認められ、流通性が非常に高い資産、つまりアメリカドルで非常にうまく機能している市場では。
実用的な代替手段として、いくつかの優れた研究施設が暗号化された中央銀行のデジタル通貨作成を目指している。
UBS(スイスの金融持株会社)、ドイツ銀行、バンク・オブ・ニューヨーク・メロンといった銀行と共に私のサンタンデール銀行も関わっている、Utility Settlement Coinプロジェクトのような計画は、即時グロス決済(RTGS)の口座に一定の資金を保有する媒介手段を通して行なっている。
最近コンセンシス社によって導入、展開された、シンガポールのプロジェクトUBINや南アフリカのプロジェクトKhokhaは、スマートコントラクトでRTGSの口座を直接用いている。
どちらにせよ、これらの構想は商業銀行と市場関係者にとって、資金の流動性と透明性を大幅に高め、その結果としてすべての金融システム内の流動性リスクを大きく下げることで、流動性資金の管理を実用的に改善してくれる道を示している。
これらの手法は熟慮を重ね、盛んに利用されていることから、世界中が大いに関心を寄せている分散型のトークンエコノミーを実現する鍵となることだろう。
How Blockchain Can Finally Fulfill Its Promise in Global Payments – CoinDesk