ブロックチェーンの中で、「コンバージェンス(日本語訳:収束)」とは、それぞれの人によって、異なる意味をもつ場合がありますが、最近、一般的に利用されるレトリックの中でその出現頻度が増えている言葉の1つです。
ある人々にとっては、仮想通貨で利用されている、パブリックブロックチェーンに基づいて生み出されたイノベーションが、企業によって利用されるプライベートブロックチェーン上でも活用されうるということを意味し、その逆もまた然りです。
しかし、また別の人々にとっては、この言葉の登場は、かつては明確に引かれていた、パブリックチェーンとプライベートチェーンというこれらのカテゴリー間の線引きが消え去りつつあることを示しています。
企業がパブリックチェーンのメリットを認識し始めると、新しいテクノロジーにより、さまざまな種類の台帳が互いにやりとりできるようになります。中央銀行は、ブロックチェーン資産の取引を決済するために使用することができる、法定通貨のデジタル版を発行することを検討を開始し始めています。
これらの結果として、専門用語の意味が時代とともにどんどん変わっていきています。
「私は、今から1年後に、多くの人々が『プライベートネットワーク』や『パブリックネットワーク』と言うのが、ばかげていると思っているだろう状況を見てみたい」
とIBMの前ブロックチェーン・リーダーであったジョン・ウォルパート(John Wolpert)は2018年のコンセンサスで語りました。
2015年を振り返り、この業界はパブリックとプライベートのそれぞれの領域へと分ける必要があった、とウォルパート氏は述べています。しかし、彼にとって、業界が今や逆の方向に向かうことが明確になりつつあります。
昨秋、IBMから去り、イーサリアムのデザインスタディオ、コンセンシス(ConsenSys)で「すばらしいことの探求者」という新しいポジションについたように、彼の職務履歴書はこのアイデアを支持しています。
実際、エンタープライズブロックチェーンの世界にいたビッグネームと呼ばれる人々が、パブリックドメインにフォーカスしたスタートアップに飛び移っていくことが、一つの兆候だと言えます。
別の例では、元JPモルガンのブロックチェーン担当のアンバー・バルデット(Amber Baldet)氏の新しいプロジェクトであるクローヴィアー(Clovyr)は、コンバージェンスを実現するためのミドルウェア開発者ツールと接続サービスを構築しようとするものです。
バルデット氏は、コインデスク(CoinDesk)に対し、プライベートネットワークを使用する合理的な理由がたくさんあり、それはプライバシーの強化やコーポレートガバナンスの制御、「パフォーマンスと損益を見積もるための計算コストが高いゲーム」だ、と語りました。
「パブリックネットワークが価値を獲得するにつれて、それは顧客が存在する場所になり、コネクティビティーは明白な進化を遂げるだろう」と彼女は付け加えました。
「中核事業をパブリックチェーンに移す事業にプレッシャーをかけることは不要であり、間もなくパブリックとプライベートの間の境界は、実用的で機能的な価値のインターネットの中へと霞んでいくでしょう。」
インターネット/イントラネットのアナロジー
では、実際にはこれはどういう意味を指すのでしょうか。
非常に規制され、仮想通貨を嫌悪する銀行業界でさえ、経験豊富な技術者の中には、公開されているオープンアクセスブロックチェーンとプライベートメンバーアクセスネットワーク間の地平上のどこかに存在する境界でじわじわとお互いが浸透してきていることを感じています。
バンコ・スタンダールズ・ブロックチェーン・ラボ(Banco Santander’s Blockchain Lab)のディレクター、ジョン・ウェラン(John Whelan)は、インターネット-イントラネットアナロジーを利用しましたが、これは、仮想通貨の支持者が、プライベートブロックチェーンが無意味なものに堕すると主張するためにしばしば利用されていました。
「私は、確証はないが、私たちはプライベートで許可された台帳ネットワーク間の何らかの収束を見ることになるかもしれないと考えている」
「プライベートとパーミッション(許可された)バージョンでは、私はイントラネットのアナロジーを使うだろう、そしてパブリックネットワークでは、私はインターネットアナロジーを現在開発中の適当なブリッジプロトコルとともに利用するだろう」
と語りました。
しかし、ウェラン氏は、コンバージェンスの重要な第一の部分は銀行内で行われなければならない、すなわち、台帳や重複テクノロジー、仲裁の数の大幅な現象が必要である、と述べました。
「金融業界は、多数の台帳アーキテクチャから、少数の台帳アーキテクチャに移行しつつあり、それは極めて簡単なものである」と彼は言いました。
他の人々は、ネットワークレベルでのパブリックープライベートのコンバージェンスの概念についてまだ懐疑的ですが、依然として互いに影響を及ぼす2つの領域を注視しています。
「プロダクトレベルでは、これらの2つのタイプのシステムの間には技術的な一致点が非常に多いため、パブリックおよびプライベートブロックチェーン間のアイデアと技術の継続的な進展が期待できると思います」と組織がブロックチェーンを構築し、配置するのを支援するスタートアップ企業、マルチチェーン(MultiChain)のCEO、ギディオン・グリーンスパン(Gideon Greenspan)は語りました。
しかし、スケーラビリティ、機密性、ガバナンスの要件は、パブリックチェーンとプライベートチェーンではまったく異なる、と彼は付け加えました。
「いずれにしても賢明に実装できるユースケースがあることはめったにありません」とグリーンスパン氏は言います。
「私が見た中で最も近いのは、パブリックチェーンを使ってプライベートチェーンの状態を表すハッシュを公開することです。これは追加のセキュリティとして意味をなすかもしれませんが、実際に『コンバージェンス』と呼ぶことはできないだろうと、私は思います。」
フィードバックループ
もちろん、このような見方は、協力という形で歩を止めるものではありません。
イーサリアムのプライベートフォークの基準を開発ために2017年に設立されたEEA(Enterprise Ethereum Alliance)は、、主要な銀行や企業に支援された、より可視的なコンバージェンスの探求者組織の1つになりました。
このグループは最近待望の仕様を発表しました。また、アーキテクチャスタックが、パブリックな仮想通貨、イーサリアムの開発を促進する非営利組織であるイーサリアム財団(Ethereum Foundation)の業務にどのように影響しているかについての詳細も併せて発表しました。
これらすべては、新しいEEAのロン・レズニック(Ron Resnick)代表の指導のもとで行われました。
EEAは、企業向けに開発された機能と、パブリックネットワークのために開発者によって流通されるEIP(ethereum improvement proposals)との間に肯定的なフィードバックループを確認しています。
EEAの統合とツールワーキンググループの共同議長であるコナー・スベンソン(Conor Svensson)は次のように述べています。
「EEAによって、より多くの基準が確立されれば、EIPの基準を確立する機会やその逆の機会が増え始めるだろう」
「私は、2018年にこれが始まるだろうと楽観的に考えている」
おそらく、これまでの最も顕著な例は、アミス・テクノロジーズ(Amis Technologies)が、ゲス(Geth: ethereum client Go Ethereum)に対してイスタンブール・ビザンチン・フォールト・トーレランス(Istanbul Byzantine Fault Tolerance)を実装したことです。
このイーサリアム改善提案(EIP-650)は、既存のPoW(proof of work)やPoA(proof of authority)よりも、金融企業により適した新しい合意アルゴリズムをGethに追加しました。
また、JPモルガンによって開発されたプライベートブロックチェーンプラットフォームであるクォーラム(Quorum)にも追加されました。
スベンソンは、ブロックチェーン上のアイデンティティは常に秘密鍵で保護されているため、パブリックおよびプライベートチェーンの境界を理論的に交差しうる別の領域としてのアイデンティティを指摘しました。
「秘密鍵が安全である限り、複数のチェーンで使用される可能性のあるアイデンティティーという考え(同じ暗号アルゴリズムを使用する場合)を保持することになります。」
と彼は言いました。
しかし、「複数のチェーンにわたって1つのアイデンティティーを使用する必要があるかどうかは、まったく別の問題です。」と彼は述べています。
台帳上の現金
それでも、パブリックおよびプライベートチェーンの本格的なコンバージェンスの前提条件は、分散された台帳への法定通貨の適用であり、多くの人がこれに同意しているようです。
ユーザーはボラティリティの大きい仮想通貨よりも政府に支援された通貨を信頼すると考えられるため、これは、あらゆる種類のデジタル資産とブロックチェーンに基づく金融商品をそのシステムを通して、より簡単に流通させることができます。
コンセンシス社のグローバルソリューションアーキテクトを導く、クラーク・トンプソン(Clark Thompson)氏は、「台帳上のキャッシュは、台帳プラットフォーム上の商取引に欠くことのできない重要な要素です。」と語りました。
イーサリアムベースのアプリケーションの構築者たちは、分散台帳上のあらゆる種類の法定通貨をチェックする専心的な専門家チームをもち、地方の銀行に対し低コストで法に基づいたトークンかソリューションを構築するためにフィリピンのユニオンバンクと共同しています。
早晩、これはより大きな銀行ネットワークや、おそらくは中央銀行までカバーするために拡張されうる、とコンセンシスは述べています。
実際、伝統的な銀行口座に保管されている法定通貨は、分散された台帳上のトークンとして表すことができますが、この設定によって償還リスクが発生し、投資家の誤解を引き起こす可能性があります。
企業の視点から見ると、究極のデジタルキャッシュは、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)でしょう。
トムソン氏によると、
「中央銀行が発行するトークン化された貨幣を許可するためには、中央銀行の政策変更が必要であり、それはカウンターパーティーリスクがないという現金のような利点を持ちます」
とのことです。
しかし、中央銀行自身が未だ暫定的にこのコンセプトを模索している中、こうした変更がどれくらいの速さで行われるかは誰もが推測していることです。
しかし、分散台帳に中央銀行の資金を適用しようとしている実効決済コインコンソーシアムのメンバーであるサタンデール(Santander)でウェラン氏は、「数年以内」に分散台帳にCBDCが適用される可能性がある信じていると述べました。
依然として注視されていることは、中央銀行によって直接的に配備されているのか、商業銀行が必然的にそのシステムへと資金を提供する二段階プロセスを利用するのかということです。
ウェラン氏は次のように結論づけました。
「これは実際に中央銀行が検討すべき政策課題であり、それは技術的問題ではない」
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