インターネットプライバシーの支持者はマーク・ザッカーバーグ氏が4月中旬に米国上院議会で行った演説に間違いなくがっかりしている。
ケンブリッジ・アナリティカ社が8,700万人のFacebookユーザのアカウントを政治目的に乱用した後、この若い億万長者は、インターネットプラットフォームが自分自身を規制する方法を知らないことを実証した。
ある上院議員からビジネスの性質について質問を受けたザッカーバーグ氏は「広告を出す」とだけ答えた。
Facebookはデータが私たちを消費者、患者、または市民として定義するかどうかについてほとんど関心がないようだ。
どのルールが望ましいかを聞かれたザッカーバーグ氏は、5月末に欧州で発効するデータ保護に関する一般規制(GDPR)が「多くの良いこと」を提供することは辛うじて認めた。しかしFacebookが「いいね」を付けるものが何なのかは不明だ。
これまでのところ2018年は、データのプライバシーとデータがテクノロジー企業によってどのように活用されているかが、メディアと一般市民注目を集めた年となっている。
欧州の企業が5月25日のGDPR発効に向けて準備を進める中、世界はケンブリッジ・アナリティカとFacebookのスキャンダルや米国大統領選挙でのロシアの干渉に気を取られ、データ主導の広告は彼らが好んで使う武器となっている。
しかしこれは2018年だけの課題ではない。米国保健福祉省によると、2016年には米国で1550万件の電子カルテが流出したとのことだ。
収集したデータが悪用されるのを防ぐため、GDPRはコストが掛かる重要な義務をプラットフォームに課している。利用規約には「明確かつ明示的な」同意を得ることとある。これにより情報の収集がサービス提供に必要なものだけに制限される。
この状況は民主主義の剣がFacebookやGoogleの頭上に迫っているようなものだ。自分のサービスを利用して注目されたものは誰もいないからだが、「あなたは顧客ではない。商品だ」という古くからのことわざが真実のように思えたことは一度もない。
GDPRはまた「忘れられる権利」を定め、プライベートな、あるいは有害な情報を公有財産から削除し抹消する。企業はデータ処理の記録を提供する必要が出てくるが、これはかなりの負担だ。
携帯電話会社を変更しても同じ電話番号を使い続けられるのと同じように、自分のデータ履歴を保持する能力はヨーロッパでは権利になっている。保健医療分野では、患者記録に可搬性を持たせることで、複合疾患の治療法などの手当てを調整できるようになるだろう。
Facebookはそれ以来、米国ユーザー向けにこれらのルールを実施するつもりはなく、GDPRへの抵触を減らすためにどのような苦労も惜しまなかった、と認めている。中国からの圧力が高まるにつれて、規制当局が米国の大手技術企業を弱体化させることを一層躊躇する可能性もある。
中国では現在、人工知能(AI)の特許数で米国と肩を並べている。中国の習近平最高指導者はAIを2025年に向けたMade in China Planの最重点項目とし、世界のリーダーとなることを狙っている。AIは私たちの私生活を超えた重要なセキュリティ上の課題となっている。
欧州はAIの戦いには敗れたが、ブロックチェーンとプライバシーについては真剣に取り組んでいる。
欧州はドンキホーテのように消費者権利を守る旗手になりたいと考えており、GDPRとプライバシーの保護がいつかは競争力を獲得すると固く信じている。
議論がマウンテンビューや深センでしか起こらなかったら、おそらくこのAIと全人類のマスターは笑顔を浮かべるだろう。しかし、それはどれくらいの期間だろうか?
「悲しい顔の騎士」のような欧州が、実際に先見性があったとすればどうであろうか? ブロックチェーンは画期的な技術としてすでにカードを切り直しているところだ。
「歴史は人間よりも想像力がある」革命について多少知っていたレーニンはこのように述べている。この誇大宣伝によって、ビットコインの背後にあるブロックチェーンがもたらす大きな変化に気付かないようなことがあってはならない。
インターネットの第一世代は情報の時代だった。データベースの構成、検索エンジン、ユーザーが持つ知識の統合により、取引コストが下がり、多くの経済部門が不完全な情報や地理的距離から解放された。
米国の技術大企業はこれらの技術を独占することで、これらのすべてについて効率向上の利益を獲得した。
私たちはインターネットの第二世代、つまり「通貨のインターネット」、またはそれに相当する、認定された情報を交換する時代に入ろうとしている。
ブロックチェーンはピアツーピアのITインフラストラクチャであり、当事者間の取引をネットワーク内のすべての参加者にとってリアルタイムで記録することで、ネットワークの改ざんを防ぎ改変を不可能にしている。
第三者の信頼がなくても、経済的な取引にもなり得る情報の交換を認証する手段を提供する。ブロックチェーンアプリケーションの開発プラットフォームの一つであるイーサリアムの創始者ヴィタリック・ブテリン氏は次のようにまとめている。
「大部分の技術は周辺部分でワーカーが行う反復作業の自動化を目的としていますが、ブロックチェーンはその中心部分を自動化します。タクシー運転手を解雇する代わりにUberを失業に追い込み、ドライバーが直接クライアントのために働けるようにするのです」
この混乱は更に深刻化する。これはネットワークを運営する企業のビジネスモデルは、利益を最大化することからネットワーク内のノード間の取引を最大化にすることへと切り替わるためだ。
確かにブロックチェーンの企業は自分たちが作り出す経済の中で中央銀行のように振る舞い、トークンを発行して支払いを行う。これはディズニーランドが別の乗り場で使える割引券を提供するのと似ている。
よく知られている医療の例を取り上げると、ブロックチェインは患者のデータを医師や研究室とシームレスに共有する機会を提供し、利用する毎に自動的に補償金が支払われる。これはデータ交換業界にとってパラダイムシフトとなる。
この150億ドル規模の産業分野では現在、大規模なデータブローカーが分け前の大部分を奪い、患者の取り分はゼロとなっている。つまりブロックチェーンは患者に健康データの所有権を取り戻すことになる。
トレーサビリティが重要な分野では、ブロックチェーンは信頼できる第三者、あまり信頼できない第三者の必要性、および市場の所有者としての特権的な地位から見たときの「賃貸料」を実質的に排除する。
ブロックチェーンは、ネットワークの利害関係者間の調整コストを削減する。これは、シリコンバレーのデータとパワー、そしておそらく我々が知っている現代の資本主義の集中の終焉となる可能性がある。
もしカール・マルクスがブロックチェーンの時代に生きていれば、彼は最終的にすべての「付加価値」を独占的に獲得する企業から労働者を解放する方法を見つけただろう。
設計上プライバシー保護とは相容れないAIを利用するプラットフォームとブロックチェーンを利用する分散型ネットワークの間には新たな格差が広がっている。それは、独占と自由主義者、ビッグブラザーと暗号通貨、米国と欧州の間での紛争だ。
これはデータの所有権を保護するための制度を単に信頼することができなくなった個人およびエンドユーザーにとっては好ましいことだ。またGDPRとブロックチェインを組み合わせてメーターをリセットできる欧州にも好ましい状況だ。
逆にシリコンバレーにとって非常に悪いニュースだ。シリコンバレーはAirBnBとAmazonが大きなシェアを占める物理的資産の共有経済を発明した。
今や古い欧州はデジタル資産の共有経済のためのルールを打ちたてようとしている。明日には我々全員が共有データのCEOになっているだろう。