公開されている暗号通貨は公開したままでいられるのか?
このシンプルな質問は主要な暗号通貨を取り巻く複雑な議論の核心にあるものだ。その議論ではイーサリアム、monero、zcashといったさまざまなプロジェクトから集まった開発者が、分散化されたコミュニティの微妙なバランスを覆す新しい形のハードウェアの登場に対してすべきことを巡り憤激している。
「特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuits)」またはASICはその利用者がネットワークの報酬の多くを獲得できるように設計されており、かつてはGPUを使う人だけが手に入れることができた一握りの暗号通貨をマイニングする目的で登場した。
しかし、問題はプロトコル自体へのアクセスと開放性だ。
一歩離れて見ると、「マイニング処理」で起きていることを明らかにすることが重要だ。「マイニング処理」というのはやや込み入った表現だが、理論的には使われていないコンピューターハードウェアをブロックチェーンネットワークの実行と確保につぎ込むことができるものだ。
イーサリアム、monero、zcashはどれも今ではGPUでマイニング可能だ。GPUとはグラフィックカードのことで、大きなコンピューターショップで販売されており、数百ドルで手に入る。しかしより高価なASICはマイニング処理に最適化して設計されており、この点がこの新しい大量の製品の登場に対して不満が上がる核心部分となっている。
不満の理由は、ビットコインが過去に示したように、ASICの登場はASIC以外の方法でマイニングすることを無意味にするレベルにまでハッシュレートを上げてしまう可能性があるため、GPUはASICと共存することはできないからだ。
将来の脅威とチャンスに対して暗号通貨ユーザーの意見は二分しているが、そのようなユーザーの多くはこれまで、今や実質的に時代遅れとなった製品に投資してきた人たちだ。
例えば「fpbitmine」という名で知られるマイナーはzcashの作者Zooko Wilcox氏を、zcashネットワークが価値を蓄積する手助けをしてきた人々を十分にサポートしなかったことで非難しさえした。
「あなたは恩をあだで返した」fpbitmine氏はzcashフォーラムにこのように投稿し、さらに次のように述べた。
「ASICマイニングを認めることで、zcashネットワークをサポートしてきたマイナー一人ひとりが立ち退かせられ、別のコインに乗り換えるか新しいハードウェアに投資するかの選択を迫られることになるだろう」
堂々巡りの議論
その結果、多くのマイナーは自分のハードウェアを他のコイン向けに使うか、マイニング済みの暗号通貨の代替版を作成する動きを見せている。そのどちらもコードベースを複製することで自由に実行できる。
先週、プライバシーを重視する暗号通貨のmoneroはシステム全体に関わるソフトウェアアップグレードとなるハードフォークを実施し、moneroネットワークでASICが使えないようにした。
それに対して3つのグループがハードフォークを行い、独自のバージョンとなるmonero classic、monero original、そしてmonero zeroを作り出した(新しいソフトウェアは互いに互換性がありASICマイニングが可能だ)。
ASICがmoneroに利益をもたらすのかあるいは脅威となるのか、という結論の出ない議論は、他の暗号通貨コミュニティの同じような意見を反映している。
例えば、イーサリアムの開発者らはASICに対抗する緊急ハードフォークに強く反対している。イーサリアムの作者ヴィタリック・ブテリン氏はこの問題に対して「何もしない」ように呼びかけさえしている。それに対し、あるイーサリアムマイナーはブテリン氏の見方を「侮辱」と呼んだ。
このマイナーは次のように述べている。
「コミュニティーはASICに対抗するハードフォークに反対だ、と人々に納得させることができると思っているとしたら、それは残念ながら間違っています」
この意見に応えるようにvertcoinのあるツィッターユーザーは、行動が必要だと考える理由を次のようにツイートした。
「イーサリアムに転用できるASICが登場しつつある、というニュースを聞いて残念に思います。独占的にマイニングすることに反対の態度を取る時が来たと思います」
同じような衝撃はzcashコミュニティにも起きている。
zcashマイナーはフォーラムでASICの排除に失敗した暗号通貨には「結果がもたらされる」と警告する一方、zcashの創設者Zooko Wilcox氏はCoinDeskに対し、フォークを実施してASICを排除することは「有害無益でさえある可能性がある」と考える、と述べた。
さらに、IC3の研究者Phil Daian氏はASICに抵抗する取り組みは検閲に似ていると述べ、他にもこのような取り組みはコア開発者チームの力を増やすものだ、と主張している。
しかしASICに抵抗する意見に対する不満はどれも少数意見のように見える。
意見を評価するためツィッターで投票を行ったところ、ASICに対抗するハードフォークに賛成する意見が多数を占める結果となった。ハードフォークでは暗号通貨のアルゴリズムを修正する必要がある。
お好きなように
しかしもう一方の意見の立場にある人々は特に勢いづいているわけではない。その代わり彼らのコメントからは「厄介払い」したがっている気持ちを垣間見ることができる。
例えば、イーサリアムマイニングのsubreddit、EtherMiningでモデレーターを務めるRob Stumpf氏は、「もし開発者にイーサリアムを改良する能力がありフォークしたいと思うなら、そうすればいい」とCoinDeskに述べた。
さらに、moneroのコア開発者の「rehrar」氏は、先日の電話で、moneroのグループで意見の不一致が起こる「確かな印象はない」と述べた。
「好きな議論を行う力は自分たちの手の中にある、というまだ慣れていない気持ちの変化です」rehrar氏はこのように述べている。
この混沌とした状況を最前線に引き戻した議論は、イーサリアムがプルーフ・オブ・ワークからプルーフ・オブ・ステークへ移行することでマイニングを廃止しようとしていることだ。ブテリン氏は先日行われたミーティングで開発者に対し、イーサリアムのアップグレードによりASICは排除される、なのであまり心配しなくていい、と述べた(変更の時期はまだ明確にされていないが)。
Stumpf氏はマイニングを廃止するというイーサリアム開発者の関心に次のように答えている。「マイニングは当初から消える運命にありました。困難さの時限爆弾が爆発するのを待っているようなものです」
Wilcox氏はこの意見に応えてCoinDeskに次のように述べている。
「プルーフ・オブ・ステークに切り替えたり、NvidiaやHuaweiのようなハードウェアの大会社に誰でも入手できるハードウェアマイニング装置を販売してもらう、といった別の解決策を考えるべきです」
Monero Research Labに勤めるSarang Noetherというペンネームの研究者は、ハードフォーク後のハッシュレートが70%から80%に落ち込んだことはMoneroネットワークでASICが密かに使われていた証拠だ、と考えているようだ。その後、落ち込みはなくなった。
Monero開発者の「hyc」氏はCoinDeskに次のように語っている。
「Moneroコミュニティではいつものようにいろんな意見が飛び交っています。その多くは開発チームは単に平等主義者のマイニングに深く関与してきたと認識しているように見えます」
The Anti-ASIC Revolt: Just How Far Will Crypto’s War On Miners Go?