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最近、急速に普及している仮想通貨の取引においては、思わぬ利益を得たという人も多いことでしょう。
しかし、名称に仮想とついているこの通貨、税金の面ではどう処理すべきなのでしょうか。今回は、仮想通貨にからむ税金について解説します。
仮想通貨に税金はかかるのか
基本的に、どの国にも属さないことが、仮想通貨の大きな特徴であり利点です。
とはいえ、この新しい投資対象についても、徐々に法的な扱いが整備されてきており、国内では、その取引から利益を得た場合の納税義務が明確化されています。
雑所得として確定申告が必要
一見するとFXや先物など、金融商品の取引と同じに感じられる仮想通貨取引ですが、現状の税制においては、金融商品の差金決済とは別に扱われています。
仮想通貨から得た利益は『雑所得』となり、確定申告を行い納税する必要があります。
確定申告とは
確定申告とは、その年の1月から12月までに得た総収入額から、最終的な所得額を計算し、適用される税率に基づき納税額を申告することをいいます。
確定申告は、通常2月中旬から3月中旬までの期間に行われ、税務署もしくは国税庁のHPなどで確定申告書用紙を入手し、必要事項を記入したうえで管轄の税務署に提出します。
20万円を超える利益で確定申告が必要
給与として収入を得ている人の場合、仮想通貨取引からの利益が20万円を超えると、確定申告を行わなければなりません。
No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|所得税|国税庁
申告しないと厳しい罰則
正しい内容で確定申告を行い、税金を納めることは国民の義務です。もし、必要な申告を行わなかったり、虚偽の内容で申告したりしたことが発覚した場合は、ペナルティとして加算された税額を納めなければなりません。
ペナルティは、申告内容を修正したことで新たに納める税額をもとに、一定の割合を積み増しします。
不正確な確定申告に対して加算される税目として、申告を行わなかった場合の『無申告加算税』、少ない税額で申告した場合の『過少申告加算税』、意図的に虚偽の申告をした場合の『重加算税』があります。
加えて、納付されなかった税額に対する金利分として『延滞税』も加算されます。
上記の各税について、主だった内容を以下にまとめました(同じ名目の税額修正を直近の5年間で行っていない場合)。
名目 | 加算される条件 | 加算割合など |
無申告加算税 | 確定申告を行わなかった、忘れた | 5~20%(税務署による調査通知との前後関係による) |
過少申告加算税 | 本来より少ない税額を申告した | 5~15%(同上) |
重加算税 | 税を逃れるため所得の隠ぺいや仮装などをして申告した | 少ない税額を虚偽申告した場合は35%、申告を行わなかった場合は40% |
延滞税 | 支払った税額の不足分に対して | 平成30年は、税金の納期から2カ月以内は年2.6%、2カ月を超えた場合は年8.9% (年率を日割り計算) |
余計な出費を避けるためにも、税額の修正申告と追加の納税は早ければ早いほどよいといえます。
加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし(平成28年12月)
No.9205 延滞税について|国税のお知らせ|国税庁
仮想通貨の税金の特徴
仮想通貨の取引から得た利益を確定申告する際に、押さえておくべきいつかの特徴があります。
総合課税の累進税率
金融商品と仮想通貨との税制上の大きな差は、その利益にかかる税率です。金融商品として認められたFX取引などで得る利益は、他の所得から切り離された申告分離課税となり、一律20%(所得税15%+住民税5%)の税率がかかります。
一方、金融商品として認められていない仮想通貨取引からの利益は、他の所得と合計される総合課税制度が適用されます。そして、その税率は所得額に応じて、5%から45%の7段階に分けられた累進税率となります。
対象となる所得の一覧
総合課税制度の対象となる所得は雑所得を含み10種類あり、その一覧は以下のようになります。
名称 | 内容 |
利子所得 | 預貯金の利子など |
配当所得 | 株主が法人から受ける配当、投資信託の分配金など |
不動産所得 | 土地や建物などの権利から生ずる所得(譲渡からの所得は含まない) |
事業所得 | 生産、小売り、サービスなど事業から生ずる所得 |
給与所得 | 勤務先から受ける給料 |
退職所得 | 退職により勤務先から受ける退職手当など |
山林所得 | 山林を伐採したり、立木のままで譲渡したりすることによって生ずる所得 |
譲渡所得 | 土地、建物などの資産を譲渡することによって生ずる所得 |
一時所得 | 職業以外から得た賞金や保険金など |
雑所得 | 上記9つに該当しない所得、公的年金等や作家以外が受け取る原稿料や印税など |
損益通算ができない
一般の金融商品、FX、先物、オプション取引などは、日本の税制上は『先物取引に係る雑所得等』に分類され、それらの損益はひとまとめに合算して申告ができます。つまり、投資銘柄間で利益と損失を相殺することが可能です。
しかし、現在の法律で金融商品として認められていない仮想通貨の取引は、そういった損益通算を行うことはできません。
また、上記の金融商品では生じた損失を、先3年間にわたり年ごとの利益から相殺し、税額を控除すること(損失の繰越控除)が認められますが、仮想通貨取引により生じた利益は雑所得であるため、この処理も行えません。
海外取引所でも税金はかかる
日本の所得税法では、国内に住所を持つか、その時点まで1年以上継続的に暮らしている人(居住者)は国内はもちろん、国外で得た利益にも課税されることになっています。
海外の仮想通貨取引であっても、区分される所得は雑所得となり、税率は累進税率の適用を受けます。
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税金がかかるタイミングとは
仮想通貨の取引において、課税されるタイミングは、どのような場合になるのでしょうか。
利確までは課税対象にならない
仮に、保有する仮想通貨が大きな含み益を生じていても、それだけでは現実の利益とみなされず、課税対象にもなりません。仮想通貨を円で決済し、利益確定をした時点で雑所得とみなされ課税されます。
商品の購入やトレードは課税対象
仮想通貨を円に換金した場合、あるいは、それと同等の取引をした場合は、所得とみなされ課税されます。
気をつける必要があるのは、仮想通貨により商品やサービス、あるいは別の仮想通貨を購入する場合も、最初に購入した時点での『仮想通貨の単価』をもとに円ベースでの所得が計算されるという点です。
保有する仮想通貨を使用して何かを購入するということは、一度円に換算(つまり利益確定)した後、改めて商品や仮想通貨に変えたことと同じという考え方です。
この場合の所得額の計算式は、以下のようになります。
- 所得額 = 商品などの購入価格 -(仮想通貨の単価 × 支払った仮想通貨数)
仮想通貨を現実に使用する際には、かならず税金が関係してくるので、通貨の購入価格と商品の価格などを、すべて記録しておく必要があります。
仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)(平成29年12月1日)
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確定申告が必要なケースを職業別に紹介
仮想通貨からの利益を含めた雑所得がある場合、確定申告が必要になるケースは、職業や利益の大きさなどにより異なります。
サラリーマンの場合
サラリーマンの場合は、毎月の給与から所得税の源泉徴収が行われており、勤務先の会社が毎年末に年末調整という形で税額の過不足を清算するので、基本的には確定申告の必要はありません。
ただし、給与以外に仮想通貨取引からの利益(および、その他の所得)が20万円を超えている場合は、確定申告でその分を含んだ所得額を申告しなければなりません。
No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|所得税|国税庁
自営業・フリーランスの場合
自営業やフリーランスの人の所得は、本来が事業所得(もしくは雑所得)となり、仮想通貨取引からの利益もそれらの所得と合わせて、総合課税制度にしたがい、確定申告で納税額が決定されます。
ただし、年の総収入が基礎控除額(38万円)以下の人は、課税対象にならないため確定申告の義務は生じません。
加えて、『家内労働者等の必要経費の特例』により、本業である事業の収入から65万円を控除してよいという制度もあるので、年の収入が最大103万円までは、確定申告が免除される可能性もあります(税務署への確認が必要)。
No.1810 家内労働者等の必要経費の特例|所得税|国税庁
主婦の場合
主婦の人でパート収入がある場合は、サラリーマンのケースと同様、給与所得があることになるので、仮想通貨からの利益が20万円を超える場合は、確定申告を行う必要があります。
給与所得のない主婦の場合は、仮想通貨の利益は雑所得であり、総合課税制度による納税義務が生じます。ただし、全ての収入(利益)が上記の通りに基礎控除額以下の場合は、確定申告の必要はありません。
学生の場合
社会人であるか学生であるかに関わらず、仮想通貨取引で得た利益は課税されます。したがって、その総額が基礎控除額を上回る場合は、確定申告を行わなければなりません。
アルバイト収入がある場合は、サラリーマンやパート収入のある人と同様に、仮想通貨取引の利益が20万円を超える場合に確定申告が必要です。
税金の計算方法
それでは、仮想通貨取引から得る利益には、実際どの程度の税金が課せられるのでしょうか。
税率と控除額の速算表
仮想通貨からの利益は雑所得であり、基本的には、収入(利益)から基礎控除などを差し引いた金額に、以下の表のような累進税率(7段階)で所得税がかかることになります(他に住民税、および平成49年までは復興特別所得税も徴収されます※1)。
課税される所得額 | 税率 | 控除額 ※2 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
330万円超 695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円超 900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円超 1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
※1 :住民税は税率が一律10%の所得割と、市町村民税と道府県民税を合わせた均等割5,000円(標準)の2種類があります、復興特別所得税は上記表で決まる所得税額の2.1%が加算されます
※2: 控除額は、所得額に税率をかけた金額から差し引かれる金額です
実際に支払う税金の計算方法
前述したとおり、一度保有した仮想通貨を円に換金(あるいは、何かを購入)する場合に、通貨の取得単価をベースに損益が計算され、利益が生じていれば所得となります。
仮想通貨の取得単価は、その購入のため1年間に支払った金額(円)を入手した総通貨数で割り算をし、決めてよいことになっています。
また、仮想通貨を使い入手した物品などの購入価格からは、円換算した取引手数料を差し引くことができます(円に換金した場合も同様です)。そうして算出した購入価格も、各取引の1年間分全てを合計(※)します。
それらと1年で使用した通貨の総数をもとに、仮想通貨取引に関する所得は以下の要領で計算します。
- 年間の所得額 = 商品などの購入総額 ー(通貨の取得単価 × 使用した総通貨数)
他に収入がないと仮定すると、この所得額(利益)から38万円の基礎控除額や(ある場合は)、その他の控除を引いた金額が課税対象になります。
そうして決定した所得額をもとに、総合課税制度の税率、および税額控除により所得税を算出した金額に復興特別所得税分(2.1%)を上乗せし、ならびに住民税(10%と低額5,000円)を適用し、以下のように税額が算出されます。
- 納税額 = ((課税対象額 × 税率)- 控除額)× 1.021) +(課税対象額 × 0.1)+ 5,000円
また、一般的に収入を得るためには経費がかかるので、仮想通貨取引のために支出した通信費や電気料金は、所得額から控除できる可能性もあります。
※1年間分全てを合計:国税庁の指針によると、本来、仮想通貨の入出金ごとに収支を計算する移動平均法が相応しいものの、1年分を総計する総平均法も、その方式を継続するのであれば問題ないとされています。
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エクセルより簡単な便利ツールを使おう
仮想通貨取引から得る所得を計算するには、1年分の履歴を総計する必要があります。複数の取引所は、そのデータをCSV形式でダウンロードできるサービスを行っており、エクセルなどで集計が行えます。
とはいえ、表計算ソフトが得意な人ばかりが、仮想通貨取引を行っているわけではなく、自分の手でそのような作業をしたくない人も多いでしょう。
そのような場合には、自動で仮想通貨の損益計算を行う便利なツールを使用することをおすすめします。
対応取引所が多いtax@Cryptact
ゴールドマン・サックス社出身の人物を開発の中心メンバーに置き、現状(2018年2月)で、13の取引所(国内4、海外9)、1476種類の仮想通貨に対応しているwebサービスが『tax@Cryptact』です。
tax@Cryptactは、国税庁指針にしたがった計算方法(指針に変更があり次第アップデート)を採用しつつ、最高で秒速40万取引という高速処理で、スムーズな情報提供を実現しています。
対応している仮想通貨取引所から取引履歴を入手し、このサービスへアップロードすることで、自動的に所得計算やポートフォリオの作成などを行ってくれます。
簡単に使えるBitTax
対応する取引所をbitFlyer、coincheck、および、Zaifの3つに絞り、使用法を簡素化した仮想通貨所得計算サービスが『BitTax』です。
仕様としては、取引所内において仮想通貨トレードを行う投資家向けであり、仮想通貨を別の取引所へ移動した場合や、物品購入などの決済に使用した場合など、いくつかの取引内容については非対応となっているので、その点は注意が必要です。
こちらも、所得額の計算方式には、国税庁指針どおりに移動平均法を採用しており、細かな損益までを逃さず計算する機能を持っています。このBitTaxも、無料で使用することが可能です。
順次拡大予定のG-tax
仮想通貨に精通した税理士紹介と、取引記録支援のサービスGuardianで使用する計算システムを、本体から分離してツール化したというのが『G-tax』です。
このサービスも、取引所からCSVファイルを入手しアップロードすることで、仮想通貨の所得額を自動計算します。対応する取引所は、現在(2018年2月)主要10カ所です。
海外取引所での取引結果を円建てに変換することや、仮想通貨間の取引を損益に含めて計算する機能も備えています。
G-taxはユーザー数に上限があり、現在では新たなユーザーの募集は行っていませんが、機能改修を行う際に、再度募集を行うとアナウンスしています。
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節税する方法はあるのか
会社員であっても学生であっても、得た利益にかかる税金を納める義務があります。しかし、税額を低く抑えるための合法的な工夫はいくつかあります。
たとえば、仮想通貨の取引を行うための支出は、必要経費として所得から控除するよう主張することも可能です(どこまで認められるかは、税務署に確認が必要です)。また、それ以外にも、税制の仕組みを使って納税額を節約する工夫があります。
法人として仮想通貨を所有する
仮想通貨取引を専業的に行う会社を設立した場合、仮想通貨から得る利益は法人のものとなり、税率も法人に対するものが適用されます。
個人の雑所得として扱われる場合、最大で45%の税率となるのに対して、法人税率は23.2%が上限であり、この点だけ注目すると法人のほうが有利といえます。
とはいえ、自分の収入はその法人から給与として受け取るようになるので、その分の所得税はかかります。
また、法人としての社会的責任(帳簿など各種書類の保存、社会保険の手続きなど)が課されることになるため、それらのコストもしっかり検討する必要があります。
利確の金額と損切りのタイミングを考える
仮想通貨から得る利益は、雑所得として7段階の累進税率により課税されます。つまり、2つの所得帯をまたぐところでは、所得額にさほど差がなくとも、大きく税率が変わる(たとえば、330万円と330万1,000円では10%の税率差になる)ことがあり得ます。
したがって、無駄な税金を納めなくするという意味においては、税率のランクが上がらない、ちょうどよい所得額になるよう利益確定の際に意識して、仮想通貨取引を行うのもひとつの手です。
また、含み損を生じている銘柄を一度手じまって損失確定(損切り)をすることで、利益を上げている銘柄からの所得額を調整するということも考えられます。
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まとめ
現状の日本の法律では、仮想通貨取引から得た利益は雑所得として区分され、7段階の累進税率により課税され、確定申告により税額が決定されます。
仮想通貨から得る所得は、円との換金により生じるものだけでなく、物品やサービス、あるいは他の仮想通貨などを購入することからも生じるので注意が必要です。
仮想通貨からの所得に関する複雑な計算を、自動で行うツールも複数リリースされているので、確定申告の際には利用できます。
節税のためには所得税率表を参考に、その年の所得が高いほうの税率を受けないよう、タイミングを工夫して利益確定することも有効です。